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下記の事例を読んで、少し考えてください。

テーマ「死守すべき線」

とあるカップルの彼女はもうすぐ誕生日を迎えるが、それは水曜日であり、仕事の後で彼氏が高級焼肉をおごってくれることになっている。もちろん彼女はとても楽しみにしていた。それとは別に、誕生日後の土日に、彼女の友人グループがオールでカラオケパーティを開催してくれるということで、彼女はそれも楽しみにしていた。だがカラオケの件を聞いた彼氏が怒り出したのである。

彼氏は「普通はその後の土日は空けておくだろ。クルマ借りてドライブデートとか考えてたのにな」と言う。彼女は「ごめん、そこまで考えてなかった」と謝ったが、彼氏はさらに「もう焼肉もだるいわ。この空気じゃいけないだろ。やめよ」と言ってきて、彼女は自己嫌悪に陥るのであった。

この事例について「およそ妥当なこと」を言っているものは下記のうちどれでしょうか。一つ選んでみましょう。

◆彼女があまりに自分勝手で浮かれ過ぎたと言える
◆彼氏の言っていることは無理があると言える
◆彼氏の愛が伝わらずに彼氏は傷ついたと言える

▼正解とコラムを読む▼

校長の解説正解「彼氏の言っていることは無理があると言える」

彼氏の言っていることは滅茶苦茶である。水曜日に誕生日を迎えるなら、次の土日は友達との予定を入れるべきではない、おれがドライブデートなどを企画していたのを想像しておくべき、お前が悪い、である。彼女は、そんなに想像力を働かせて最善の構えをしていないと、こんなに責められるのだろうか。通常、彼女がここまで想像できるとは思えない。しかも彼氏は、このような難癖をつけて、誕生日当日の焼肉ごとナシにしようとしているのである。

彼氏は、彼女が友人たちとカラオケにいって朝まで歌いまくる企画をイメージし、嫉妬したのではないだろうか。彼氏は無価値感を感じてしまったから、後付けのように「あぁそこの日はドライブデートとか考えてたのにな」と言い出して、彼女に罪悪感を背負わせようとしたのだと思われる。そして彼女はまんまと自己嫌悪に陥り、彼氏の作戦はばっちりハマった。嫉妬したから彼女を傷つけたいし弱らせたい、そういう彼氏の作戦は、ばっちりハマった。

彼女は彼氏に誕生日をお祝いしてもらってさらに友人にもお祝いしてもらえるという、最高に幸せな一週間を過ごすはずだったが、彼氏は自分とは関係の無いところで幸せになる彼女が許せなかったのだと言える。相手の幸せを願えないとき、自分に不安があって競争的になっていて相手の足を引っ張りたくなるのだが、今日はここが論点ではない。

もしこの二人のやりとりを裁判官が見ていたらどうだろうか。校長が公正にジャッジして話を誘導しようと思ったらどういう横やりを入れるだろうか。おそらく彼氏に「誕生日が平日ならば、次の土日は彼氏のために空けておくべき、っていうのは暴論じゃないか」と言うだろう。「そこまでイメージできなくてもいいはずだ。彼氏が頭の中でドライブデートを企画していたことなど、彼女が読み切れなくて当然だ」と言うだろう。彼氏の責め方は、明らかに言い過ぎなのである。だが彼女は、彼氏の攻撃にまんまとやられて罪悪感を抱かされ、必要以上に責められているし、彼氏が正しいと思わされている。

今日言いたいのはここである。世の中いろいろ難しい問題はあるし結論の出づらい問題はあるが、少なくとも結論はこの範囲で収まるべきとか、これ以上はどうやっても責められるべきではないとか、そういう「線」がある。その線をできれば踏み越えられないようにしてほしい。

議論を尽くしたり充分に物事を見通せていれば、「土日を空けておかなかったお前が悪い」などという話は通るはずがないことである。しかし彼氏は罪悪感を利用したり、威圧したりして、無理筋を通してしまった。彼女は線を踏み越えさせてしまったのである。理屈のおかしなところが分からないとか、落ち着いていられないのなら仕方がないのだが、できればいろいろな手法を知ったり冷静さを保って、その「線」を踏み越えられないようになってほしい。

どんなに賢い人でも、どこか理屈を捻じ曲げたりしなければ踏み越えることができない「線」がある。自分が真っ当なことをしていて、しかも充分に理を分かっていれば、誰にも踏み越えられることのない「線」がある。それを超えて文句を言ってくる人などがいたら、絶対にどこか言い分におかしなところがあるし、理不尽さがあるはずで、何か反論もできるはずなのである。もちろん校長も、その場で良い反論が思い付かなかったとか、なんとなく相手の理不尽さに気付いていたのに呑み込まされてしまったとか、そういう経験が人生の中で何度かはあるが、そういうことをできれば減らしてほしいというのが今日の主旨である。

校長がもし「線」を踏み越えて無理筋の話を通そうと思ったら、罪悪感とか威圧もそうだが、気付かれないよう論理をすり替えたり、コンプレックスに絡む話題で冷静さを奪ったり、巧妙に「これを知らないと恥ずかしい」という雰囲気を醸し出してゾーンを弱めたり、最初から結論が出ないことが決まっている哲学的な話に持っていって混乱を誘ったりするだろう。柔道や相撲のようなもので、自然で盤石な構えを崩されたらなかなかディフェンスをするのは難しいのだが(だから仕方がないときもあるのだが)、安易にやられすぎないよう護身術をそこそこ身につけてほしいなと思うのである。

普段からこのサイトでは、こうした理に強くなるような話をしているつもりではあるが、今日はこの「線」というものの存在を意識してもらえればと思う。

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